なぜかEngineer Mind誌が送られてきたので、読みながら遅い昼メシを食べる。特集1は「ソフトウェア経済学」だ。日経BPでの松原さんの記事以来、この手の話題は多い。非常に興味深い話題なので、ちょっと読んでみることに。
ソフトウェアの価値をきちんと測定し、(特に受託や請負の)ソフトウェアの取引を適正なものにしようという活動のようだ。その意義は非常に重要で、産業界を挙げてすぐにでも取り組まなければならないだろうし、取り組んでいるという話もよく耳にする。非常によい特集だ。
ところが読んでみると、何のことはない、半分はゲーム理論だのアジャイルセル生産だのの宣伝に過ぎない。「セルは一定の生産性と品質を持つ」という仮定から「開発の生産性や品質が平準化され効率的に開発できる」だの「生産性や品質が一定であるので効率的な投資が行える」といった効果を謳っているが、そんなもの効果でも何でもなく、単なる仮定の言い換えに過ぎない。そもそも、その仮定を成り立たせるのが難しいから皆苦労しているのではないか。
そもそもこうしたムーブメントというのは、一つの旗に過ぎない。その旗の下にさまざまな知見を持った人が集まり、議論し、動機付けされることで、世の中に役立つ活動に昇華していく。そうした活動はソフトウェア開発以外にもたくさんあり、それぞれ尊敬すべき活動である。
しかし旗を掲げると、その旗を自分の利益のために活用しようという輩が出てくる。政治家などはその最たるものだ。一言で表現するならば、ハゲタカである。ハゲタカはまだ屍肉を喰らうからまだマシな方で、こうした輩は育とうとするムーブメントを喰らって殺してしまう分、始末が悪い。ハゲタカ以下である。
別にソフトウェア経済学とゲーム理論、アジャイルセル生産プロセスは本質的に関係ない。確かにソフトウェア経済学を発展させるツールとしてゲーム理論やアジャイルセル生産プロセスは有効なのかもしれないが、雑誌の特集なのであればそんなバーター取引のようなことは止めて、(特にテーマ記事に)ソフトウェア経済学の全体像を丁寧に記述することに力を注ぐべきである。いい加減な図を載せてお茶を濁している場合ではない。
ハゲタカは別にコンサルタントだけではない。大学の研究者もハゲタカになりうる。例えばDependabilityという概念があるが、こうした社会的に重要であり、かつ広く解釈されうる概念はハゲタカの良い標的になる。日本の情報系の分野ではDependabilityという概念が流行っているが、自分の研究がDepentabilityに関係すると広言している研究者の多くはDependabilityの基礎すらも分かっておらず、単に「高信頼性」的な概念が自分の研究のアピールポイントの一つであるから群がっているだけだ。本当の意味で、日本の情報系分野にどのようなDependabilityの活動が必要なのかを議論しているとは思えない。
こうしたハゲタカコンサルタントやハゲタカ研究者は、産業のことや日本のこと、世界のことなどはどうでもよく、自分のビジネスが上手くいくことや自分の研究が注目されることにしか興味が無いのだろう。いや興味はあるのかもしれないが、そうした広範な問題点をフェアに議論する能力を備えていないだけかもしれない。だから自分の分野という(問題そのものに比べて)矮小な範囲でしか解を提示できないのかもしれない。
また、そういうコンサルタントや研究者を重宝する政府機関も困ったものだと思う。本当に国のこと、産業のことを考えて発言する権威を選べばよいのに、決してそうはしない。自分たちにニコニコするハゲタカと付き合っていた方が居心地がよいだろう。本当に国のことを考えるのであれば、容赦なく政府機関を批判する岸田孝一さんのような一言居士に、土下座してでも手伝ってもらうべきだろう。
我々は票のために屍肉に群がる政治家をハゲタカと批判する。また企業救済を謳いながら実のところは解体による利益を狙っているファンドをハゲタカと批判する。しかし、周りには規模の小さなハゲタカがうようよいるのだ。こうしたハゲタカに瞞されないように、情報の取捨選択を行いたいものだ。
1 件のコメント:
ヨガの連載がメインですよ。
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